浜島の人たちは昔から、海辺の近くに住んでいたので井戸が少なく、たいへん水に不自由をしていました。
また、井戸があっても海が近いのでせっかく掘った井戸水も塩からかったりすることがあったのです。
今から、二百年も前のある年に、長い間日照りが続いてどこの家の井戸水もかれてしまい、村の人は仕事も手につかず困っていました。そんなある日、一人の坊さんが村を通りかかり「どうしたのか」「何か困ったことでもあったのか」とたづねました。
「もう長いこと雨がふらへんので、水がないようになってしもた」「浜島の井戸は全部かれてしもた」と口々にいいながら天を仰いでなげきました。「それは本当になんぎなことじゃ」「私がなんとか水の出る場所をさがしましょう」といって、持っていた杖を突きながら村の中を歩いて回りました。
そして、海辺の所へくると、立ちどまってなにごとか唱えながら、大きな杖を地面について「ここへ井戸を掘りなさい」といいました。
村人はあまりにも海に近いのでうたがいながらも言われた場所を掘ってみました。
すると二メートルもいかないうちに、すきとおったきれいな水が「コンコン」と出てきました。「ふしぎなこともあるもんやのう」「これで村も救われる」とお坊さんの立ち去った方に向かってみなは手を合わせました。
その後、この井戸はどんな日照りつづきのときでもかれることはなく「あのときのお坊さんは弘法大師さまに違いない」と村人の間でいわれるようになりました。
そして、この井戸は弘法井戸と名づけられて、今も大切に使われています。
また、この時に弘法大師がついた杖のあとも、井戸の近くの石に残され今に伝えられています。(浜島の昔話 浜島町教育委員会)