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牛鬼伝説
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五ヶ所浦の切間の谷に一つの洞穴かある。ここに牛鬼という変わったものが住んでいた。首から上は牛の頭をし、人間のようにものを言い、一日に千里も走る通力を持った強鬼だったという。 この牛鬼は、よく西山にでてきて、五ヶ所城の殿様(愛州重明公)が城中で弓の稽古をするのを眺めていた。ところが、弓自慢の殿様が、あろうことか、ある日、その矢を牛鬼めがけて放してしまった。矢は、牛鬼の胸元へ当り、牛鬼は西山の下の畑へ真っさかさまに転げ落ちた。 このときの牛鬼の鳴き声はすさまじく、その上、真っ黒な煙がもうもうと立ち上がった。その煙にむせんだ城主の奥方は毒気にあてられ、なおらぬ業病を患うことになった。そのため、親元の北畠家へ養生という口実で帰され、あとから離縁を申し送られ、奥方はそれを悲しんで自害してしまった。 この非道を怒った北畠家は、ついに軍を起こし、とうとう愛州家は滅亡してしまった。この牛鬼というのは、もともと五ヶ所城の主だったそうで、死際に、「自分を助けておけば、この城は末長く繁昌するものを」と言い残したという。 (江戸時代『勢摩軍記』)
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