南勢町泉の火振り “ヤットウ”

  「ヤーヤーヤーヤー」勇ましい掛け声とともに、赤々と燃え上がる俵を両先につけた竹を担いだ若者が走り抜けていく。

  シデと呼ばれる飾りをつけた竹を掲げ、小兵と呼ばれる若者達が続く。
勢いよく燃え上がる両肩先の俵をゆっくりと回す。大勢の見物人もシンと静まり返り、凛とした空気が漂う。今年はあいにく雨の中での披露となったが、その雨をも振り払うかのような勇壮な舞だ。

  南勢町泉地区に古くから伝わる伝統行事《火振り》。地元では〈ヤットウ〉と呼んでいる。毎年8月14日に行われるこの行事の歴史は古く江戸時代から続いているといわれている。

  古い伝統行事は地元のお年寄り達が細々となんとか続けている。という状況が多い中、ここでは若者たちの活躍が目立つ。

  以前は村の若者が執り行ってきたこの行事も、若者の都市への流出、高齢化、など過疎化の中で維持が難しくなり《消防団》に託されることになった。《消防団》が地区で唯一20代〜30代の若者で結成されている組織だからという。

  彼らからは伝統行事に参加する若者達にありがちな、仕方なくイヤイヤやっているというような態度が感じられず、むしろ積極的に楽しんでいる様子がうかがえる。

“火事”も 
“伝統文化”も僕らが守る!

  若者達をひきつける祭りの魅力とは何なのか。消防団の皆さんに《火振り》の後、感想を聞いてみた。

  この祭りの主役、"親"と呼ばれる火振りの大竹を担いだ T.Hさんは「小さい頃から見てきたので、いつかやりたいと思っていた。始まるまではうまくできるか、すごく緊張したけど、本番は楽しかった。みんなに迷惑かけんようできて良かった。また来年もやりたい」

  小兵を務めたW.Tさんは「楽しかった。今度はぜひ親を務めたい。やっぱ親の方がかっこいいし…」と笑った。

  同じく小兵を勤めたT.Sさんは「今年から消防団の部長を務めている。団員はサービス業の人が多いので、休みが一定せず、みんなが集まるのも大変。正直、声をかけても参加してくれるかどうか心配だった。フタをあけてみたら若い人ほど積極的で驚いた。」

  10年以上《火振り》に参加し、今は技術指導をしているAさんは「この泉地区の中で最一番大きな伝統行事。なくさないよう守っていきたい。また太鼓などいれてアレンジもしていきたい」と語った。

  消防団を構成しているこの地域に住む20〜30代の青年達は一度町外、県外で暮らし戻ってきた、いわゆるUターン組が多い。他地域で暮らした経験があるからこそ、地元の風土、伝統文化の良さについても違った着眼点で見えるのかもしれない。

   いずれにしても過疎化の進む地域で非常に頼もしい存在だ。これからの活躍を期待したい。頑張れ消防団員達!!

出典:きらり☆通信 第15号(平成15年10月1日発行)
    おたいらステーションより

左から T.Sさん、T.Hさん、W.Tさん