日本大百科事典より抜粋

日本の雨乞い

日本の雨乞いはさまざまな変異があるが、その方法には五種類の類型がある。

1.山頂で火をたく型

山頂で火を燃やしながら、鉦や太鼓をたたき大騒ぎをするのである。たとえば岐阜県高山市の近郊では、雨乞いは以前、綿山という山で行うのが慣例であった。山頂には雨乞い小屋も建っており、その一隅に石がご神体として祀ってある。その前で盛大に火をたき、笛を吹き、太鼓をたたきながら、雨の降るまで泊り込むのを常とした。

2.踊りで神意を慰め雨を乞う型

唄や踊りで神意を慰め神に降雨を懇請する型である。1の型ほど広い分布は持たず、福井、岐阜、三重、滋賀、 奈良、和歌山などの近畿を中心とする地域に固まり、更にまた島根、愛媛県に散発的に分布している。
  雨乞いの一つの例を挙げると、和歌山県の八幡村〔現在の清水町]という所では、神社の境内で
『これほどの ひでりゆくのに 雨乞い踊りを始めて氏神前の白洲にて みなて立ち寄りて踊れども 神の威徳はまだ見えぬ』とはやしながら踊ったという。

3.神社、神(仏)像、滝つぼなど、神聖なものに対する禁忌を犯し、神を怒らせて降雨を強請する型

普段は神聖視されているものを冒涜して神を怒らせ、強制的に雨を降らせようとするものである。
  たとえば兵庫県飾磨郡の夢前川の水源地方の例を見ると、ここを亀ヶ淵といい、昔からこの淵を汚すときは必ず降雨があると信じられていた。そこで、天候の異常に農民同様に敏感であった相場師や投資業者が、牛馬の内臓をここに投げ込んで天候の荒れるのを待ったことがあった。村民はこの淵が故意に汚されるのを防ぐために、干天の日などには村で見張りを立てたほどであったという。
  禁忌を破るやり方はさまざまで、地蔵を縛り上げ川につけ、打ったりたたいたりする例もあるし、神社にいたずらしたりする。

4.神社に参篭し降雨を祈願する型

山へも登らず火もたかずに、神社に参篭して夜を徹して神に祈願する型である。
「参篭」というのは、雨乞いだけに限らず一般に広く行われるが、雨乞いの場合には,祈請の仕方に極めて積極的な面がある。
  たとえば、静岡県榛原町勝間田では「立待ち」ということが行われた。それは、氏子が氏神の西山神社に詰め、一人ずつ神前に立って昼夜一睡もせず、降雨を強請する一方、釣鐘を打ち鳴らしたのである。

5.神社や滝つぼなど聖地から霊験ある神水ををもらってきて耕地に撒く型

水を撒いて歩く型である。この型には、特に霊験のあると評判のある場所の霊水をもらって撒くのがある。たとえば群馬県や埼玉県では、水戸の雷神様までご神水を受けに行き、帰る足を休めるとそこで雨が降ってしまうので休まず帰村した所があるという。

その他奇想天外なもの

以上五つの類型以外に非常に奇想天外な雨乞いが局地的に見られる。たとえば、

・女が相撲を取る(秋田県)
・からの葬式を出す(秋田県)
・柱の先端から張り渡した綱をかえるに扮した男が伝 わって降りる(千葉県)
・各戸一丁ずつすずりを出して川で洗う。(山口県)

などである。